初めて中田島砂丘を訪れたのは 2004 年、静岡県浜松市で開催された浜名湖花博からの帰り道です。 浜松駅前の地図でその存在を知り、暇つぶし程度の気持ちでバスに乗りました。 ひと気のないバス停で降り、あたりの様子から人気のある観光地ではないかもしれない 失敗したかなと思いながら入口へ向かいました。
海の方へしばらく歩くと強い風がふいてきました。 台風の風とも季節の変わり目の風とも違う経験したことのない風でした。 その風の作り出す風紋は美しく夢中で写真を撮りました。 風の音しか聞こえないその場所は妙に居心地が良く、フィルムがなくなってもしばらくその時を楽しみました。 暗室でプリントをし仕上がりを見た時、しっくりこないものを感じました。 撮る時の問題だと思い何度か訪れては夢中で撮りプリントをし何か違うと感じる、その繰り返しでした。 現像済みのフィルムだけが増えていきましたが、しばらくその存在を考えないようにしました。
ある日美術館で 1 枚の写真を見ました。美しく懐かしさを感じるその写真は鶏卵紙という技法でプリントされたものでした。 私が生まれるずっと前から存在する中田島砂丘と 150 年以上前に誕生した技法が合うのではないかと感じました。 ゼラチンの代わりに卵白を使い、感光剤として硝酸銀を使う鶏卵紙は、 私には難しいものだったので専門家に指導してもらいました。 ついに仕上がった写真は私の記憶に残る中田島砂丘の光景、そのままのものになりました。