もう10数年前のことです。ちょっとした病気がきっかけで身体が大変ツラい事になりました。 それまでは日々の小さな幸福感を写真に収めていた僕でしたが、「ああ、死っ！」っていう気持ちが心の一隅を占めるようになってから、新しい作家人生が始まったように思います。

そうやって、病気で息も絶え絶えだった頃に撮った写真でまとめた作品が１つあり、そして病気から立ち直ったあとの写真でまとめた作品が１つあります。

今回展示しているのは、その後者のほうです。

あの頃はせっかく病から抜け出したのに心の中は晴れ晴れせず、死に損なった消化試合のような気持ちを様々なものに投影してはシャッターを押し、暗い中だからこそ見える光を探していました。そんな作品です。

とにかく子供のころから病弱だったし、人並みの寿命なんてもとから期待していませんでしたが、僕と同年代なのに先に旅立っていった仲間も少なからずいて、元気そうだったあの人たちと僕の残り時間の違いが何だったのかはよく分かりません。

今や僕もそこそこの年齢になり、むかしの病気なんて可愛いもんだなと思うぐらい具合の悪さもより切実になってきましたが、写真で作りたいものがまだもう少しあります。これからもご覧いただけると嬉しいです。