Exhibition
Room 1個展
朧眼風土記
安掛正仁
会期:2024.11.21(THU)- 2024.12.01(SUN)
12:00-19:00(最終日のみ16:00まで)
「朧眼風土記」
最近、書きものをする時に鉛筆を 使う。
少し、先の円くなった芯で書く線は柔らかく、優しく豊かな気がする。
思いや考へを 残すには、 円くなった鉛筆がよろしい。
今では 知らない人もいるだろうが、短くなった鉛筆を差し込んで、使いやすく延長する道具がある。補助軸という。
小学生の時分、もう何十年も前のことになるが 、数本の補助軸を持っていた。
まだ新しい、鍍金が綺麗に施されたものの中に 1本だけ 、ずいぶん時代を経てきたように思われる、茶色く、くすんでしまった真鍮製のものがあった。
当時の私は、そんな古臭い道具に興味もなく、放ったまま 、いつの間にか無くしてしまった。
何でもない事柄が、時を経て、心から離れなくなり、忘れていた記憶を呼び起こしたり、新たな景色を 見せてくれたりすることがある。
鉛筆を使うようになって、くすんだ補助軸のことを思い出した。
もとの綺麗な金色から、茶色く姿を変えるまでに経てきた出来事を空想したり、私の手元にあった当時の 、私の周りの景色を(それはしばしば 音 や 色彩、体感を伴って)思い出し、当時を追体験するきっかけとなる。
無くすこともなく、今、手元にあり、 触れることができたならば、どんなに豊かなことだろう。
しかし、それが叶わぬ夢であっても、 思い出すきっかけさえ残されていれば、今に再び呼び戻すことが出来ると思うのだ。
これら一葉一葉がそのきっかけになればと思っている。
安掛正仁